日藝とは 学部長メッセージ

21世紀、人類は大きな変化の中にいます。

インターネットによって、世界の人々が自由に繋がり、人種や性別、年齢や地位に関係なく、次々と新たなコミュニティが出現しています。これにより、20世紀までの価値観が崩壊し、地球規模、ひょっとすると宇宙規模でモノゴトを考える時代になっています。これまでの社会構造では見えてこなかった、あるいは隠されていたような問題も露呈し、これまでの生活では得られなかったような情報を簡単にシェアできるようになっています。その結果、今までの社会構造の中で長きにわたって作り出されてきた価値観が果たして正しいものであったのかという疑問を持たされています。疑問や不安が増え、社会や人に対しての信頼自体が揺らいでいます。

では、どうすればよいのか、この現状を変えることができるのがアートやエンターテインメント、つまり、我々が追求する芸術なのです。

芸術と人間の繋がりの歴史は古く、法学、科学、医学、経済学など、大学で学ぶどの分野よりもはるかに昔から存在しています。歌うこと、踊ること、描くこと、我々の専門分野は紀元前、ひょっとすると人類の誕生と共にあるのではないでしょうか。つまり、芸術とは人間の営みそのものであり、芸術を追求することは人間を追求することなのです。

ライブで感動したり、映画やドラマを見て泣いたり、舞台を見て笑ったり、戦場の写真を見て怒りを覚えたり、本を読んでうっとりしたり、人の心を動かすことが芸術学部の日々の学びです。経済学で人を泣かせることはありませんし、工学で涙を誘うことはできませんが、芸術は唯一、人を泣かせてもよい学問領域なのです。

喜怒哀楽全ての感情、そして、五感を全て活用できるアートは、人間にとって最高の財産です。社会とは人、人は心を持った生き物、その心を自在に動かせる芸術こそ、今の日本、そして世界に必要なものです。

日本大学芸術学部長
日本大学大学院芸術学研究科長
川上 央