生の現場の迫力と空気感。
出来事の最前線に立ち、それを撮って伝える。
仕事を通して相撲の世界にも魅せられました。
同じ苗字でつながった縁
日藝2年のとき、たまたま八百屋さんの前を通ったら、「新宮みかん園」と書かれた箱が目に入りました。私と同じ「新宮」って、なかなかない苗字なので、これはもう運命だ!と思って、すぐに検索して調べたんです。佐賀県にあるみかん農家さんだということがわかり、即、「写真を撮らせてほしい」と連絡しました。遠縁でも何でもなく、ただ同じ苗字というだけの学生からの突然の連絡だったにもかかわらず、「新宮みかん園」のご夫婦は、快く迎え入れてくださいました。卒業まで5~6回は通い、収穫などの手伝いをしながら写真を撮りました。毎回ご自宅に泊めていただき、食事もごちそうになり、往復2時間の送迎までしていただいて…。卒業制作は、このみかん園を撮り、「邂逅*のみかん」というテーマで発表し、2023年度芸術学部長賞をいただきました。
ご夫婦とはいまもずっとつながっていて、もう第二の実家みたいな感じなんです。
*邂逅(かいこう):思いがけなく巡り合うこと。

家族のように受け入れてくださった新宮みかん園の方々と
「日藝で写真を学んでいる学生」という肩書って、実はすごく大きいと思うんです。私はもともと好奇心がある方だと思うのですが、学生時代はこの肩書がよりいっそう私の背中を押してくれたような気がします。学生時代は、みかん園さん以外にも、地域の老人会の清掃活動などに同行して活動の様子を撮らせてもらったり、コロナ禍の母校(小学校)に行って写真を撮ったり。撮る題材って意外と身の回りにたくさんあるし、学生だから受け入れてもらえることもある。新宮みかん園さんも、たとえば今の私の立場で同じことをお願いしても、少し身構えられてしまったのではないかと思うんです。だから後輩たちと話す機会があるときは、「学生時代に何でもチャレンジして」とエールを送っています。
学ぶうちに自分に合うジャンルが見えてきた
写真に興味を持ったのは中学時代です。その頃から見るようになったSNSにはステキな写真がいっぱいあって、わあ、こんな世界があったんだ、私も撮れたらいいな、と。写真を学ぶなら日藝というイメージが私のなかにはあって、中学時代から、すでに日藝で学ぶことを目標にしていました。高校は都立校に進み、写真部で活動。紆余曲折ありながら、一般入試で日藝に入学しました。
当初は広告写真に興味を持っていました。広告写真の授業はとても勉強になりましたし、デザイン学科や千葉県富里市とのコラボ企画はすごく楽しかったですね。コラボ企画は、市の方が届けてくださった富里市名産のスイカを、大学内の大スタジオで私たち写真学科の学生が撮影するんです。で、デザイン学科の学生がデザインして、ポスターに仕上げて富里市に飾ってもらう。まさに広告づくりの現場と流れを体感でき、ワクワクしながら作業をしていました。
ただ、広告写真って、基本的にスタジオにこもってやるんです。スイカの撮影は楽しかったけれど、たとえば授業では、ライティングをしっかりやって、題材を少しずつ動かして撮りながら、良いポイントを探る、みたいなことを延々とやっていて。とても勉強にはなるのですが、ずっと室内にこもっているのが私には合っていなくて(苦笑)、広告写真は向いていないかもと思い始めました。その頃、新聞社の写真部の説明会があり、あ、これだ!と。新聞社を中心に就活し、毎日新聞社に入りました。

ヘリコプターに乗って空撮中の一コマ
毎日新聞の写真部って、何でも撮るんです。スポーツ、政治、事件、記者会見、日常生活、インタビュー、どんな現場にも行きます。印象に残っているのは、WBCの大谷選手のグランドスラム、高市さんが首相に選ばれた瞬間などでしょうか。歴史的瞬間に生で立ち会い、写真を撮ったという経験は、自分の心にも刻まれます。でも、こうした大きな出来事だけではなく、些細な日常も含め、さまざまな場面に立ち会えることも報道ならではのやりがいです。

ニューイヤー駅伝の撮影。先頭車に乗ってずっと撮り続けました
日藝時代の学びは、今の仕事にとても役立っています。報道の現場で写真を撮る、というスキルはやはり現場で経験を重ねていくことで養われますが、デジタルで撮影した何十枚もの写真の中から、「その場」を伝える一枚をセレクトするセンスなどは、学生時代に身に付けることができたと思います。というのも、日藝では、本当にいろいろな写真を見るので、目が肥えるというか、自然とそうしたセンスが養われたのではないかと思います。

日本大学藝術学部写真学科 学生選抜写真展GRIP2023での展示風景。学年を問わず写真学科生が応募した作品の中から毎年7~10作品が選ばれ、展示されます。
今やすっかり相撲好きに
毎日新聞の写真部に配属されると、誰もが必ず大相撲の撮影を経験します。両国国技館のいろいろなところで撮るんですが、もっとも臨場感があるのが砂かぶり。ときには目の前に大きなお相撲さんが落ちてくることもあって、けっこう怖い。ファインダー越しに、うわあ、来た来た来た来た~、みたいな。でも、危険を回避しながらぎりぎりまで粘ると、勝負が決まる瞬間の迫力ある写真が撮れたりするんです。

2026年1月12日 毎日新聞朝刊より 大相撲初場所初日 砂かぶり席から撮影
両国国技館で相撲の撮影をするうちに、すっかり相撲の魅力にはまってしまいました。今ではプライベートでファンクラブに入り、頑張ってチケットを取って、東京で行われる場所中は、仕事がない日も両国国技館に通っています。
仕事のときはもちろん気持ちも仕事モードで撮っていますが、やっぱりプライベートでも好きなものだとむちゃくちゃ力が入るし、撮影していても楽しいですね。ある時、推しの力士が本割で勝って、優勝決定戦に進む瞬間を仕事として撮影したのですが、もう嬉しくて、心の中で大興奮でした。
心底好きなものだと、もっといい写真が撮りたい、好きなものをよりよくたくさんの人々に伝えたいという気持ちが芽生えます。それがあるとないのとでは、仕事へのモチベーションも違うと思うんです。
毎日新聞の写真部って、それぞれが好きなことを何でもやっていいよ、っていう風潮があるんです。与えられた仕事はしっかりやりますが、「好き」も徹底的に追求できます。サッカーが大好きな先輩はずっとサッカーを撮っていて、ワールドカップの撮影にも行っていました。お笑い好きの先輩は芸人さんを取材して、ウェブで連載しています。その連載のお笑いライブが、会社主催のイベントとして開かれることもあるんですよ。私は相撲好きなので、相撲の撮影には積極的に行かせてもらっています。
記者修行もいい経験に
今は、前橋支局で記者の修行をしています。新聞社の写真部って、弊社に限らずこうして一度外に出て、記者修行をすることが多いんです。フォトグラファーは、写真を撮るだけじゃなくて、記事を書くことも実はけっこうあるので、記者側の立場を経験することは、とても勉強になります。自分の好きな分野の撮影と同時に記事が書けるようになると、より世界も広がると思います。
ただ私はまだ入社して3年目なので、フォトグラファーとしては未熟な部分がたくさんあることを自覚しています。でも30歳になる頃には、もっと自信を持って、自分のやりたい取材もどんどんやっていきたいです。
世の中で起こっている出来事の最前線に立ち、それを世界に伝えるという仕事にとてもやりがいを感じます。小さなことから大きなことまでいろいろなことを、身を持って知ることができるということも楽しいし、やりがいを感じるポイントです。
母校には今も足を運んでいます。お世話になった恩師にも会いたいし、日藝祭は毎年楽しいし。日藝って定期的に戻りたくなる場所なんです。
(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

2024年 写真学科卒
毎日新聞社 写真映像報道部(現在は前橋支局 記者)