夢だった「映画の音職人」へ。
日藝での経験が自信につながっています。

映画学科卒業
土手 柚希(どて ゆずき)

想像力と工夫で音を創造する
フォーリーアーティストを目指す

映画をよく観るようになったのは高校生の頃からでした。主に洋画が好きでアクションものなどを中心に楽しんでいました。転機になったのはマーベルコミックを映画化した『ゴーストライダー』のDVDを観た時です。特典映像でフォーリーアーティストが紹介されていて、この仕事面白そう!と魅せられてしまいました。
映画の「音」はセリフ、音楽、効果音の3つの要素から成り立ちます。セリフと音楽以外のすべての音、すなわち足音や動作音、食べる音、街の喧騒などの環境音は後から付け加えられ、それらを担当する部署が音響効果です。
その中でも、実際に足音や動作音のアフレコを行う人がフォーリーアーティストです。さまざまな音をアナログ的な手法で創り出す、想像力と工夫で音を創造する音職人といえるでしょう。それ以来、フォーリーアーティストが私の夢になりました。

フォーリーを行うスタジオはさまざまな種類の足場や物にあふれかえった倉庫のようなところ。倒れるシーンの音を、実際に倒れるアクションを行って録音。

進路選択の際は、迷わず映画の音響効果を学べる大学を志望しました。映画といえば日本大学芸術学部が真っ先に思い浮かび、いろいろ調べてみたところ設備が充実していること、卒業生が多いこと、実制作をしながら学べる環境などに魅力的な要素がたくさんあり、オープンキャンパスに参加した際の学生たちの活気、スタジオ施設などにも惹かれて進学を決めました。

試行錯誤を繰り返し、映像の情緒に
ぴったりの音を生み出す

映画学科の多くの学生は、映画は好きではあるものの、これまで映画に関して本格的に学んだ経験はない人ばかりです。そのためみんなほぼ同じスタートラインからの学びだったので、共に成長できる喜びに満たされていました。あらゆる授業が新鮮で楽しかったです。私が進んだのは「撮影・録音コース」であり、フォーリーを含めた映画作りの技術を中心に一通りの工程を学ぶことができました。

3年の実習でフォーリーを行った時

授業はもちろん課外でも、学生主体で映画を作り上げていく作品制作など実践的に学ぶ機会が豊富でした。ロケをはじめ撮影現場での録音も体験しました。録音機材を扱う面白さ、チームで作り上げる一体感など、想像以上に楽しかったです。監督コースや演技コースとも交わって実習を行うので、録音部としてだけでなくさまざまな視点での意見や考えを聞き、視野が広がりました。

最も強く記憶に刻まれているのは、自分が録音技師として携わった卒業制作です。卒業制作は4月にチームを決め、夏頃から撮影が始まり1月に完成させるという流れで行われました。子どもを主人公にした『ふれる』というタイトルの作品で、台詞はほぼ脚本には書かれておらず、現場での心の動きで台詞を発していくという手法で制作しました。

学生時代、卒業制作時に友人と。隅田川のほとりにて。

フォーリーの仕事としては、空中で陶器を作るシーンのイメージ音を作成したことが印象に残っています。機械で作った音ではなく、生の音で表現したくて、いろいろな素材で音を出して録音し、試行錯誤を繰り返しました。たどり着いたのが、割れた陶器の破片と砂による音です。映像の情緒にぴったりの、キラキラしたイメージの音ができました。
ちなみに同作品は、第45回ぴあフィルムフェスティバルのPFFアワード2023で準グランプリを受賞しました。

また、学生時代にプロの現場を知る機会にも恵まれました。映画などのアフレコ版を海外で制作するために、セリフをすべて抜いた音データを作るMEという作業があります。その作業を見学させていただいた時に、セリフがないのにすべての音が自然に入っている。それがあまりに不思議で、感服した覚えがあります。音響効果とは、あることを悟られず、けれど、なくなると物足りない、縁の下の力持ちのような存在だと思い、音響効果の仕事の魅力を再確認できました。

日頃から「音」にアンテナを張り
環境音の録音にも自ら赴く

学べば学ぶほどフォーリーアーティストの夢は確固たるものになり、実写映画のフォーリーに携われる会社を中心に就職活動を行いました。音響効果の会社はSNSを使った募集が多いので、日々SNSをチェックしていたところ現在勤務している株式会社ヴェントゥオノが音響効果の募集をしていることを発見しました。映画『キングダム』など、私が好きなアクション映画やNetflixの作品を多く扱っていることから、すぐに応募したのです。

古い家を歩く足音を録音するために作ったセットにて。衣擦れ音も録るために着物も羽織る。

「とりあえずやってみろ」が会社のスタンスであり、入社した年の夏には主要キャラクターの足音を任されました。いきなりの大仕事で緊張しましたが、大学で実践的に学んだことや、現場で培った対応力のおかげで仕事に馴染むのに時間はかかりませんでした。

メジャーな作品の主要キャラクターのフォーリーを担当させていただくようになり、エンドロールに「フォーリーアーティスト 土手柚希」と名前が出ているのを見た時は感激しましたね。さらに公開のすぐ後、高校時代の友人から突然連絡があり「名前を見つけた」と言われ、お互いの近況を報告し合ったのもとても嬉しい経験でした。

撮影現場担当の録音スタッフにお願いして足音を録音。

私が心掛けているのは、日頃から「音」に対してアンテナを張っておくことです。日常の音、動作音、物同士が当たる音、紙がめくれる音、バネの音……など、身の回りにはさまざまな音があふれています。聞いた音の特徴を捉え、音情報としてわかりやすく、かつ主張しすぎない音作りを目指してます。

季節や地域による環境音の変化にもよく耳を澄ませます。音の採集のために、環境音を録りに行くのは趣味のひとつにもなっているくらい楽しいです。面白いものを見つけた時にカメラを構えるように、私は録音機を持って気に入った音を集めます。旅行先の音や、友達の家のドアの音など、思い入れのある音を使うと、勇気をもらえるというか、生きた音になる気がするのです。

休日に録音機を背負って登山。

映画業界で日藝出身ということは
メリットばかりだと実感

実際に音響効果のプロとして働くようになって、学生時代を振り返ってみると映画制作の全工程を学べたことは多くのシーンで生かされていると実感します。
フォーリーを録るにしても、環境音を録るにしても、「録音する」工程が生まれます。現場録音という、気候や環境に左右されやすい過酷な収録環境で、適切な機材を選んだり柔軟な立ち回りを求められた経験から、「録音する」ということにとても自信がつきました。
また、日藝の卒業制作では必ず一人一作品、技師を担当する作品を制作します。自分が主体となり、計画から完成までやり抜くという経験は、日藝でしかできない貴重な機会でした。

所沢校舎の前で、実習終わりの写真。今も業界で頑張ってる仲間たちに感化されてます。

業界には日藝の卒業生がとても多く、現場でよく卒業生と一緒になったりします。お互いに日藝出身ということだけで親近感を覚え、現場の雰囲気がよくなる気がします。横のつながりもでき、ブレーンも増える。日藝出身ということはメリットばかりだなと実感しています。

(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

土手 柚希  どて ゆずき

2023年 映画学科撮影録音コース卒。
株式会社ヴェントゥオノ勤務 
音響効果 / フォーリーアーティスト


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