広告づくりとは、
人をわかってあげる仕事。
アイディアは、
人の気持ちや悩みの先に
あるんです。

放送学科卒業
茂木 彩海(もてき あやみ)

広告は悩みから生まれる

もともとテレビっ子で、なかでもよく見ていたのがドキュメンタリー番組。特に印象に残っているのは、難病を抱える少女を追った番組でした。世の中には、自分がまだ知らない人や価値観がたくさんある。ドキュメンタリー番組を通じてそれに出会えたことに、高校時代の私はとても感動して、私もテレビ番組を作ってみたいと思うようになりました。

ただ、日藝に入学して番組制作を学ぶにつれて、テレビ番組からCMの方に興味が移ってきました。きっかけになったのは、当時電通に勤務していた講師の先生の授業です。先生は、ご自身の仕事を題材にして、広告作りの道筋を教えてくださいました。広告は、もとはクライアントの悩みがスタートになっていて、そこから広告の具体的な表現につながっていく、と。悩みから広告が生まれたことは、驚きだったと同時に、私にとって大きな気づきになりました。

この「気づき」は、電通に入ってCMを作るうえでも、ずっと私の根底に根付いています。今、私が担当しているCM案件のなかにスマホがあるのですが、これも「悩み」が広告づくりのベースです。日本人はひとつのメーカーのスマホを一度使うと、機種変してもずっと同じメーカーのものを使う傾向があります。でも自分がスマホに求めるニーズを改めて考えて、いろいろなスマホを比較検討してみると、ずっと愛用しているメーカーのものよりも、他社のものの方が機能的にすぐれていることがけっこう多いんです。でも、そのすぐれている部分を言っても伝わらない。売れない。つまり、そこがクライアントであるメーカーさんにとっての「悩み」なんです。私たちは、そうした悩みをクライアントと共有して、解決策を探っていきます。たとえば、カメラ機能をアピールしたいなら、「これだけ画素数が増えた」というような広告を作りがちですが、それだと大体のユーザーは、「私のカメラもキレイに撮れるし、別にいいや」と素通りしてしまう。それを「推しのライブを撮影する時、ここまで寄れる」とか、「満月の時、クレーターまで映る」など、クライアントが言いたいことを、ユーザーの興味に刺さるようなメッセージに言い換えながら、CMの表現を考えていくんです。

私は立川談志が語った「落語とは人間の業の肯定である」という言葉が好きで、卒論は「落語と広告は似ている」というテーマで書きました。落語には、どうしようもないおっちゃんなんかがたくさん出てきます。そんな人も肯定してあげるのが落語だと、談志は語っているのですが、広告も人の気持ちや悩みをわかってあげるものだと思うんです。たとえばおむつの広告を考えるときは、赤ちゃんの気持ちにもお母さんの気持ちにも想いを馳せることが大切。今もそんな気持ちで広告づくりに携わっています。

撮影では、チームで意見交換しながら最適なカットを探ります

日藝は、アイディアを否定しない集団

日藝時代の学びや経験は、仕事の至るところに活かされています。放送学科の授業は、チームを組んで実習をしながら進めていくものが多いので、これもCMづくりの現場と同じです。また、同じ課題に対し、いろいろな意見や企画が出るので、自分の案を人の案と比べたり、自分の案をどのようにアップデートしていけばよいのかを自然に考えられるようになりました。検証しながら目利き力を育んでいく、という感じでしょうか。
そして日藝には、他者のアイディアを否定せずに受け入れる土壌があります。放送学科は日常的にアイディアが飛び交う場だから、「個人」に必ずアイディアがくっついてきます。たとえば他の大学だと、あの子かわいいよねとか頭いいよね、など、外見や能力で見られることが多いと思うのですが、日藝生は、このアイディアはあの子っぽいよね、とか、こういう風に考えるのはあいつらしいね、のように、個々の考え方を否定せず、理解する。否定せず、その考えもわかるよって言えるのは、すごくステキなことだと思います。
なぜそれができるようになるのか、という理由も、実はアイディア出しなんです。アイディアを出すって自分の素をさらすようなものだから、やろうとするとすごく恥ずかしいんですね。でも、入学してからずっと全員がそれをやらざるを得ないので、互いの素や価値観を丸ごと知りながら親しくなれる。自分も素直でいられるから、大きな心を持ったまま社会に出ることができるんです。
仕事をしていると、人とぶつかることがたくさんあります。理不尽な人もなかにはいます。でも日藝で育まれた、他者を否定しない心や自分をさらけ出せる術があると、最初は苦手だった人との距離が縮まることもあります。苦手、嫌、という否定で終わってしまうと、そこで壁ができてしまいます。でも、受け止める、理解する、他者の意見を否定するにしても、ただ否定するんじゃなくて代案を出すことによって、人との付き合い方も変わります。広告はチームで作るので、こうした付き合い方ってすごく大事なんです。チームがギスギスしていると、いいものって作れないので…。

結果よりも「チーム力」がやりがいに

早いもので、広告業界に入って16年目になりました。若いころは、成果を重要視することが多くて、目立つ仕事とか話題になるような仕事に関わったときに、嬉しさややりがいを感じていたのですが、年や経験を重ねるにつれて、やりがいも変化してきました。今いちばんやりがいを感じるのは「チーム力」。電通のチームってとても仲がよくて、ひとつの目標やゴールに向かって皆が同じ方向を向いて進めることができるんです。そうしてチームが一体となって新しいことに挑戦できたり、クライアントの課題を解決できたときは、本当に嬉しいですね。

電通同期との飲み会

後輩たちに伝えたいこと

仕事の傍ら、2026年1月まで、母校で5年ほど講師を務めました。そのときすごく感じたのは、もっと日藝という環境を活用してほしい、もっと夢を追って大胆に行動してほしい、ということです。
日藝って、かなりエッジが立った大学なので、目標ややりたいことがあって入学する人が大多数なのかな、と思っていたのですが、講師として学生を見ていると、そうでもないんです。もちろん目標を持っている学生はたくさんいますが、何かよくわからないけれど入ってみました、という学生が意外と多くて。在学中に打ち込めることや目標を見出すことができればよいのですが、ただ普通に4年間を過ごしてしまうと、いざ就活となったときもどこを受けていいのかわからない。結局興味がなかった分野にとりあえず就職しました、みたいになってしまう。
これだけ機材もスタジオもあって、おもしろい先生や先輩がたくさんいて、やろうと思えば何でもできる環境なのだから、それを活用しないのはもったいないです。

講師時代、学生が学生広告賞を受賞。赤ちゃん(我が子)を抱っこしているのが私

それから最近よく感じるのは、行動しない人が多いこと。私が学生の頃って、尊敬する放送作家の事務所に行って、とにかく学ばせてほしいとお願いして付き人になった友人もいるし、芸人もやってみたいから、と、吉本の養成講座のようなところに通っていた友人もいました。自分の道って、誰かが見つけてくれるものではないし、流れにまかせて授業を受けておけば何とかなるものでもありません。やっぱり自分はこれをやりたい、この人の話をもっと聞きたい。だから行動する。ぜひ自分から行動する4年間にしてほしいと思っています。

(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

茂木 彩海  もてき あやみ

2010年 放送学科卒(CM専攻)
株式会社電通 第5マーケティング局


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