研究者の頭の中は、すごい
でも、すごすぎて、
他人には伝わらないことがある
私はその間に立ち、
伝え方をデザインしています
一見難しそうなイベントも、ベースは「文化祭」
国内外にたくさんの事業所・施設がある国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)。ロケットの打ち上げなどに使用される「種子島宇宙センター」や、中高生なども見学に訪れる「つくば宇宙センター」などが一般的に知られていると思いますが、宇宙に関するさまざまな謎を研究している「相模原キャンパス」も、宇宙好きにとっては知名度が高い施設。私が所属しているJAXA宇宙科学研究所科学推進部も「相模原キャンパス」内にあります。
JAXAの宇宙科学研究所は、一般の方々に宇宙科学に興味関心を持っていただくためのさまざまな活動をしています。私は、イベント企画、見学施設のパネル制作、講演会の空間演出、一般向け冊子の制作などを行っていますが、年に一度行われる「相模原キャンパス特別公開」では、運営管理全般を担当しています。
具体的な仕事としては、特別公開日に出展したい人や部署の申込受付、ブースの割り当て、パンフレットの制作など。備品の発注や、会場内の立ち入り禁止エリアの確認、展示の動線を決めたり、企画の提案も行います。特別公開全体のマネジメントを行う役割、というイメージでしょうか。
もっとわかりやすく言うと、高校や大学の文化祭実行委員のような感じです。学校の文化祭って、学校を広く一般開放して学校のカラーや活動をアピールしながら来場者に楽しんでもらうイベントですが、相模原キャンパスの特別公開も、雰囲気でいえば文化祭にとても似ています。私は高校時代から文化祭プロジェクトに参加していたのですが、親からも「高校生のときからやってることが変わらないよね」なんて言われているんです。

宇宙科学講演会で、ともに運営に携わった仲間とともに
「難しいことをわかりやすく伝える」ことにはまった学生時代
日藝時代は、デザイン全般についてももちろん学びましたが、「わかりやすく伝える」活動にどっぷりはまっていました。ゼミでよくやっていたのは、サイエンスコミュニケーション活動の一環としての日大理工学部とのコラボ。日大理工学部のイベントにデザイナーとして参加して、彼らの活動を、ポスターやパネルでわかりやすく伝えるんです。
在学中、もうひとつはまっていたのが、東京都立大の学生が立ち上げた「宇宙広報団体TELSTAR」というインカレサークルでの活動です。現在も継続しているこのサークルは、宇宙の魅力をフリーマガジンなどでわかりやすく伝える活動をしています。宇宙の研究をしている人たちが、難しいテーマの取材や執筆をし、そこに非理系人の私たちが関わって、この表現だと一般的にはわかりづらいとか、こういう風に説明したら理解しやすいんじゃない?図を入れたらどう?などと、ビジュアルや言葉の表現を工夫して作り上げていくんです。日藝のゼミ同様に、「難しいことをいかにわかりやすく伝えるか」を、インカレサークルでもやっていたわけです。
理系分野って、専門的になればなるほど、難しい言葉や表現が飛び交っています。でも彼らにとってはそれが日常だから、分野外の人に伝わらないことがわからなかったりするし、そのまま伝えようとすると、伝わらないことにジレンマを感じていたりするんですね。そこに非理系で、デザインを学んでいる私たちが入って、いろいろな提案をすることで、やわらかくてわかりやすいものが出来上がる。すごく楽しかったですね。

学生時代の私。フリーマガジン「TELSTAR」の制作に没頭していました
インカレサークル活動が、JAXAとの出会いにつながった
日藝卒業後は、フリーペーパーを発行している会社に入りました。ゆくゆくはデザインをやるつもりでしたが、その会社は、入ったらまず営業を、という決まりだったので、私もフリーペーパーに載せてもらう広告枠の飛び込み営業をしていました。
社会人になっても、会社が休みの土日は「宇宙広報団体TELSTAR」の活動を続けていました。実はTELSTARってもともとJAXAのインターンに行った人たちが立ち上げたサークルで、JAXAとはちょっとつながりがあったのです。で、今私が所属しているJAXAの部署に、次年度空きが出る、という情報が入ってきて、迷わずエントリー。2017年3月から、JAXAの任期制職員として働くことになりました。
デザインはコミュニケーション
私がJAXAで担当している仕事って、デザインそのものというよりも、企画や編集、マネジメント寄りだと思います。私は、大学時代のサークル活動などを通して、イラストレーターなどの完全クリエイティブ職よりも、一見難しそうなものに一歩踏み込んで、わかりやすく伝える手伝いをして、自分の知的好奇心を誰かの新たな知的好奇心につなげていくことに関わりたいな、と思っていました。今の仕事ってまさにそれです。
日藝時代の活動はすべて今の仕事に直結しています。ゼミの木村先生は「社会に出て折れる人が多い。学生のうちに経験しておくと良い」とよくおっしゃっていましたが、私はまさに学生時代から、ゼミやサークル活動を通して周囲と協働しながらプロジェクトを進めていく経験をしていました。一人で完結する仕事というものは社会にほぼありません。ですから、社会に出る前に、学生という立場で現場実習できたのは、本当によかった。現場で課題が与えられたら、相手が不安を覚える前に進捗を報告すること、イレギュラーに気がついたらまず連絡すること、一人で抱えきれなくなる前に相談すること。学生時代の活動を通して、社会の生き方をたくさん教わりました。
また、日藝の授業では、現役で仕事をしている講師の先生方が、自分の仕事とからめた現実的な課題を出してくださることがよくありました。課題に基づいて自分でものを作ってダメ出しされることが蓄積されると、だんだん短い時間でよりよいものが作れるようになるし、苦手なことも見えてきます。
私は非理系の人間ですし、もともと宇宙に興味があったわけではないので、10年JAXAにいても、研究者が語ること、表現することの内容がわからないことがたくさんあります。けれどもそこでわかったふりをしていると、とんでもないミスにつながったりするので、素直にわからないと言って教えてもらいます。少しわかってきたら、自分なりの解釈を相手に伝えて、まだかみ合わないことがあれば何度もすり合わせをする。そうした過程を大切にしています。
JAXAは意外とクリエイティブなことができる組織かも
JAXAって、研究者ばかりのとんでもなく専門的な組織、というイメージがあるかもしれませんが、宇宙と関係のない部署や仕事もたくさんあります。クリエイティブ分野に関心がある職員が集まって立ち上げた「いいものつくり隊」という有志団体もあって、いろいろと面白い活動をしています。もちろん私も参加していますが、JAXAのなかでは希少価値のクリエイティブ系出身者も数人いますし、クリエイティブとはまったく無縁だった研究職の方も参加しているんです。
(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

2016年 デザイン学科卒
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所 科学推進部